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2025年11月 巻頭言

巻頭言


御津医師会理事  清藤 哲司

 10月上旬は、高市早苗氏の自民党総裁就任(4日)、坂口志文氏(大阪大学特任教授)のノーベル生理学医学賞受賞(6日)、続いて北川進氏のノーベル化学賞(8日)と、大きなニュースが相次ぎました。
 坂口先生は、免疫応答を制御する内在性制御性T細胞(Treg)を発見。同時受賞した米国の2氏(米・システム生物学研究所のMary E. Brunkow氏、米・Sonoma BiotherapeuticsのFrederick J. Ramsdell氏)は、自己免疫疾患に関わる遺伝子Foxp3を発見しました。坂口先生は、Tregの特異的分子としてCD25、Foxp3を同定し、Tregの異常が多様な免疫疾患の発症に関与していることを初めて証明(Nat Rev Immunol 2003; 3: 199-210)。これらの功績により、坂口先生は多数の国際的な賞を受賞、2019年に文化勲章を受章されました。
 一方、2013年にイグノーベル医学賞を受賞した新見正則先生(新見正則医院院長)の研究もTregに関するものでした。心臓移植をしたマウスにオペラの『椿姫』を聴かせたところ、Tregの誘導により拒絶反応が抑えられ、生存期間が延びたという研究に対して贈られたものです。新見先生は1985年慶應義塾大学医学部卒業。1993年から1998年まで英国オックスフォード大学の移植免疫学教室に留学されました。この間、1995年に発表された坂口先生の論文(J Immunol  1995 Aug 1: 155(3): 1151-64)をうけて、臓器移植でも免疫制御細胞が生じていることを証明しました。このように、移植医療と免疫制御細胞に関する論文を多数発表されています。
 新見先生は、10月12日に広島で開催された日本東洋医学会中国四国支部学術総会にて講演され、私はそれを聴講しました。漢方薬は生薬の足し算すなわち「他成分系薬剤」で、医師自身が創薬の主体となるべきと先生は語ります。煎じ薬を使用すれば、構成生薬量の増減からはじまり、別の生薬を加えることも、またある構成生薬を抜くことも可能です。まったく新しい生薬構成によるオリジナルな漢方薬を作ることもできます。現在ある西洋薬や漢方薬 で治らない症状や病態に対応できることこそが真の漢方の魅力です。漢方エキス製剤の登場について先生は「漢方薬の進歩の終焉の始まり」といいます。画一化されたエキス製剤に頼るあまり、新たな組み合わせや煎じの工夫といった“創薬的視点”が置き去りにされつつあります。
 新見先生は多方面で創造的な仕事をされましたが、東洋医学会ではきわめて異色(異端?)の存在です。漢方が既存の生薬の組み合わせや量の増減で創薬可能であるように、今おかれた状況の中で、患者さんのためになる、私独自の診療スタイルを追求していきたいと考えます。
 

投稿日時: 2025-11-07 10:45:25 (7 ヒット)

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