2024年7月 巻頭言

巻頭言


御津医師会会長 難波経豊

 

 おかげさまで令和6年度の総会が無事に終わり、役員改選を経て、御津医師会の新役員体制が始まりました。この度は新たに3人の先生方が理事に就任されました。当医師会の将来を担う大切な人材であり、今後の活躍に期待しながらも、気負わず少しずつ役職に慣れて頂けたらと思います。
 会長は私が再任を拝命いたしました。2期目になります。ともすれば年齢とともに狭くなりがちな視野を広く保ち、常識や先入観にとらわれず、超高齢者の増加や医療資源の減少といった社会の変化の現実に柔軟な視点を持ちながら、会の運営に尽くしていく所存です。至らないところもあるとは思いますが、引き続きよろしくお願い致します。
 また、挨拶に加えまして、当医師会からの依頼を受け、各種担当にて御活動いただいている先生方に、この場を借りて篤く御礼申し上げます。
 まず、学校医、園医、および、学校協力医を御担当頂いている先生方に心から感謝申し上げます。最近では、会員の先生方の御高齢化もあり、担当して頂ける先生方が徐々に減っており、複数校を掛け持ちして頂いている先生も多いのが実情です。そのため、辞退が出ると補充が大変厳しい状況です。学校医の先生方には教職員の学校保健管理医も兼ねて頂いています。このような状況のなか、御担当頂いている先生方には頭が下がる思いです。
 同じく、岡山市介護認定審査会の審査員も、担当して頂ける先生方が少なく、辞退が出ると補充が大変厳しい状況です。この審査会は医師の審査員が出席しなければ流会となり、介護認定が滞ってしまいます。介護系が医療を無視して進まないための砦の一つとなっています。御担当頂いている先生方には大変感謝しています。
 その他、市町の委託事業である休日在宅当番医制度に該当する先生方、地元企業の産業医として活動して頂いている先生方、健康市民おかやま21の各中学校区の医師会代表として担当して頂いている先生方、当医師会主催の講演会などで座長を担って頂いている先生方など、会務にご協力頂いている先生方には心から感謝いたします。
 さて、この数年間は当医師会の役割として感染症対策に専念せざるを得ない時期でした。しかし、その間も社会の高齢化は待ったなしに進んでいます。そして、新型コロナ感染症も5類に移行して既に1年以上が過ぎた今、昨年度から徐々に再開してきた高齢化社会の地域医療対策を、さらに進めていく時期が来ています。学校保健、健診予防、産業保健、感染症対策、地域医療など医師会の会務は多種多様ですが、その中でも高齢化社会における地域住民の医療の確保は、医師会の役割として一丁目一番地と考えています。
 社会の超高齢化に伴い、入院が必要な状況ではないが、慢性疾患、運動器疾患、また、移動手段の問題などで、以前のように外来に通院できなくなる患者が増えています。そのような患者に対して、逆に医療機関から自宅へ医療を届ける、これが在宅医療です。外来と入院の間の第3の医療提供手段です。超高齢者の増加に伴い、在宅医療の需要の増加は必至です。しかし、この需要の増加に対して、在宅医療を行う在宅医の数が圧倒的に少ないのが現状です。
 一方で、社会の超高齢化は多死社会を意味します。在宅医療では看取りも行いますので、しばしば在宅医療と看取りはセットのように論じられます。最近では地域医療構想での病院の病床削減の方針もあり、在宅医療による看取りの推進が、議論もされないまま当然のようになされているように思われます。
 しかし、医師が交替しながら24時間体制を維持する病院とは異なり、在宅医の多くは24時間ワンオペレーションです。ワンオペレーションの在宅医にとって、在宅医療での通常診療の負担は移動くらいですが、看取りには時間的縛りという大きな負担が強いられます。それでも件数が限られていれば対応できますが、高齢化に伴い看取り件数が増加すると、在宅医は出張も飲酒もできない状況になります。病院で例えると、24時間365日、院内で待機しているような状況です。この大きな負担が、在宅医の増えない理由の一つとも考えられます。
 在宅医療での看取りの成功事例がしばしば紹介され、これこそ在宅医療といったイメージが抱かれがちですが、果たしてそれが正解なのか、在宅医の労働環境はそれでいいのか、それで超高齢化社会に対応する在宅医療の広がりは確保できるのか、そろそろ真剣に考える時期が来ていると思います。
 在宅医療の推進は、超高齢化する地域住民の医療確保の対策として重要であることに疑う余地はありません。しかし、在宅医療と看取りは少し切り離して議論する必要があると考えています。在宅患者の看取りの全てを在宅医が抱え込まなくてもよい制度設計が必要と考えています。それには病院の協力も必要であり、病診連携の新たなテーマと考えています。
 そうは言っても病院の負担にならないよう、ぎりぎりまで在宅医療で診て、最期の短期間を病院に依頼といった流れを、在宅医の一人としても期待するところです。当医師会の森脇元会長は、会長をされていた頃から「時々入院ほぼ在宅」のキャッチフレーズで在宅医療を推進されていました。その考え方は私も同じですが、それに加えてこれからは「最期は入院ほぼ在宅」も議論に値するのではないかと思っています。
 昨今、病院では「医師の働き方改革」が話題になっています。しかし、開業医の労働環境については、対象が経営者であることから話題にすらなりません。「海外旅行に行ける在宅医」を模索したいと思っています。そして、看取りのストレスが軽減されれば、患者一人でも二人でも在宅医療を導入して頂ける先生も増えてくるのではないかと思っています。
 在宅医療について所感をつらつらと述べてきましたが、在宅医療に限らず、本年度も会員の先生方および地域の医療に貢献すべく、諸々の活動を進めていく所存です。会員の先生方には何かとご協力を依頼することがあると思います。今後とも当医師会の活動にご協力頂きますよう、何卒よろしくお願い致します。
 

 

投稿日時: 2024-07-02 21:34:50 (29 ヒット)


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