2024年1月 巻頭言
巻頭言
御津医師会会長 難波経豊
新年明けましておめでとうございます。
ここ数年の間、世界中を席捲し、人々を不安と委縮の奈落に突き落とし、人間界にカオスをもたらした新興感染症も、このところやっと下火になり、久しぶりに息苦しさから解放された新年をお迎えではないかとお察しします。今期は以前のようにインフルエンザも流行し、普段の冬が戻ってきたなと不謹慎にも少し安心を感じてしまう、それも正直な気持ちです。
しかし、これで久しぶりに心安らかな一年を送れるかなと思いきや、本年はまた違った毛色のいくつかの厳しい波が押し寄せてくる模様です。
まず春には、診療報酬、介護報酬、障害福祉サービスの報酬のトリプル同時改定が待っています。診療報酬の大幅マイナス改定をある中央省庁が主張しているとの噂が先日まで聞こえていました。ここ数年間、未知の感染症との闘いの前線に立ち、酷暑の日も極寒の日も全力で国の方針に協力してきた我々医療界に対するなんたる仕打ちかと思っていましたが、我々の声が届いたのか、選挙にも影響が出そうなほどの反発の危機感を感じたのか、なんとか本体はプラス改定となりました。政権支持率の急降下が追い風になったのかもしれません。しかし目指していた大幅プラス改定には程遠いものとなりそうです。物価の変動や人件費の高騰のなかでもお上が決めた公定価格に完全に依存するこの仕組み、生きるも死ぬもお上次第、医療の質の確保とは言えモヤモヤします。
そして秋には、資格確認のオンライン一本化と、それに伴う紙ベースの保険証の廃止の波がやってきます。この国の現在のIT過信には大きな不安を感じます。ITが便利であることは自明ですが、機械は壊れるものです。壊れた時も業務を止めないためには代替手段の備えが必要です。しかし、オンライン資格確認の代替手段となる紙ベースの保険証が廃止されます。代替手段を残せば本命が普及しないとの危惧感から退路を断つ考えでしょうか。しかし万が一の場合のフェイルセーフの議論がほとんど聞こえてきません。本当に廃止で押し切るのか見物です。そしてその次は恐らく電子処方箋に関するなんらかの大きな波がやって来ることと思います。とは言うものの、個人的にはITが嫌いなわけではありません。院生の頃は岡山大学循環器内科の大江元教授の教室で、コンピュータプログラミングを用いた計算シミュレーションとCG可視化による心房細動の解析で博士号を取得し、その後も臨床の傍ら、同様の不整脈解析や、臨床や実験で得た生体信号のCG可視化の研究を開業まで続けてきたコンピュータ好きです。ただそれだけにコンピュータの融通の利かなさはよく知っており、昨今のIT過信の雰囲気を危惧するところです。
ところで今年は、在宅医療の診療報酬の軸となっている在宅時医学総合管理料の前身である、在宅時医学管理料が1994年(平成6年)に創設されてから30年になります。当時と比べて社会は高齢化が進み、今後さらに高齢者人口は増加する一方、病院の病床数は削減され、これまで以上に在宅医療の重要性が増してきます。しかし今でさえ、在宅医療の周知はまだ思ったほど進んでいません。在宅医療の提供側のキャパシティーも不足しているうえ、必要とする方々とのマッチング体制も不十分と感じています。地域医療を旗印に掲げる地区医師会として、在宅医療の市民への周知と提供側の充実、そして需要と供給をつなげるマッチングの具体策を、行政や他の職能団体などとともに進めていく必要性を感じています。
さらに言うと今年は、医療制度の近代化の原点となる法令「医制」が1874年(明治7年)に明治政府から発布されて150年になります。近代医療の黎明期から現在まで、先人たちは様々な情勢の変化に対応し、医療は変遷してきました。そして現在は超高齢化という情勢の変化の真っ只中、そしてその後は超弩級の人口減少です。10年後20年後を見据えながら、地区医師会として何ができるのか考えていきたいと思っています。
年初から固い話ばかり書いてきましたが、それはそれとして、これまで数年間の息の詰まるような閉鎖的な時代を乗り越えた今、今年は皆様にとって開放的な一年になることを願います。
本年も医師会活動にご協力のほど何卒宜しくお願い致します。
投稿日時: 2024-01-09 18:38:52 (346 ヒット)