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2024年4月 巻頭言

巻頭言

御津医師会理事 清藤哲司

 先日、岡医連主催・地域包括ケア研修会に出席しました。「急変したがん患者の救命処置におけるACPの問題点と失敗しないための提案」と題した講演が行われました。講師の先生は呼吸器内科医ですが、52歳で脳梗塞を発症され、懸命なリハビリを経て復職されたそうです。ある末期患者さんは、ACP(advanced care planning)の話し合いを繰り返し行われ、急変時心肺蘇生を行わない意思を確認されていました。ところが入院中に予想外の急変があり、家族に電話連絡したところ、「気が動転して決められません、まずはできるだけのことをしてください」とのことで積極的な治療を行われたそうです。経過中、ACPに対する意思が二転三転することがあったようです。
 私も身内のことで経験がありますが、急変の電話連絡を受けた際に、瞬時に決断を下すことは大変重いことだと感じました。一瞬、「挿管してください」と言いそうになりましたが、何とか冷静に判断できました。私が医師でなかったら、頭が真っ白になったかもしれません。
 ACPは、人生の最終段階における医療の決定プロセスにおいて、患者の意向を尊重することです。患者の意向は、状況によって変わり得るので、ACPは繰り返し行われますが、医療関係者が主導するACPは、患者の本音を引き出すことは難しいのではないかと専門家は指摘しています。意思が二転三転するというのは、本音ではない意思を表明していた可能性があります。講師の先生も闘病生活の中で、患者の立場からは医師にはほとんど本音は言えなかったと、実体験を告白されています。
 現実には、医師・医療者と患者・家族の関係は、対等にはなり得ません。医療者から「決めるのはあなたですよ」と言われても、知識や経験のない患者は迷い、不安になるだけです。
 年間250人ほど終末期患者の診療を行っているある医師は、患者が最後にどんな医療やケアを望むのかを、必ずしも決める必要はないと言います。
 m3.comの調査によると、高齢者の医療に従事している医師にACPについて聞いたところ、「日本社会に浸透していない」が94.3%に達し、83.3%は「医療従事者にも浸透していない」と回答しました。医師からは「ACP導入が医療の諦めというイメージを変えないといけない」「病状が進行するにつれて、意見が変わることがよくある」などの声が寄せられたといいます。
 ACPにおける患者の意思は、書類にサインして完結するようなものではなく、常に移ろいゆくものと考え、常に患者に寄り添う姿勢が医療者には求められるのではないでしょうか。
 

投稿日時: 2024-04-09 15:08:53 (242 ヒット)


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