2021年8月 巻頭言
巻頭言
御津医師会副会長 難波経豊
COVID−19、この一本のRNAが蠢くだけの個体に、ヒトという複雑個体が翻弄される日々が続いています。会員の先生方におかれましては、このような環境下での日々の診療業務に、精神的にも肉体的にも大変お疲れのこととお察し致します。
昨年初めから続くコロナ騒ぎで、様々な言葉が世間を賑やかしてきました。中国武漢から始まり、クイーンエリザベス号、WHO、パンデミック、3密、県境や国境の移動自粛、PPI、不織布マスク、アベノマスク、フェースシールド、ガウン、アルコール消毒、緊急事態宣言、時短営業、酒類提供禁止、自粛警察、パチンコ店叩き、流言飛語、コロナ差別、オンライン会議、PCR、ワクチン、等々。
昨年夏には「新型コロナウイルス検査実施医療機関」の認定、10月には「発熱患者等の診療・検査医療機関」の指定、そして発熱外来の時間帯指定やそれに対する補助金、また、感染症拡大防止の慰労金や支援金もありました。最近ではコロナ陽性で自宅療養中のかかりつけ患者に対する健康観察の委託契約や、濃厚接触者に対する検査の委託契約もありました。新型コロナウイルス検査に伴いGMISやHERSYSなるシステムも出現しました。
昨年末からわが国でもワクチン接種の話が具体化し、先行接種、優先接種、一般接種に分かれ、各々で国・県・市町と管轄が異なる、行政の縦割りに付き合わされる形の、かのややこしい現行の接種体制を目の当たりにすることになりました。このワクチン接種に伴いV−SYSやVRSなるシステムも出現しました。
マスコミは我々医療従事者をコロナ医療の第一線の担い手などと一律に持ち上げて超多忙な様子を報道しますが、コロナ患者を扱う大病院とは対照的に、個人医院では医療機関忌避による来院患者の減少で、経営が傾くほどの診療科も出てきました。ならば当院のような小医院はコロナ医療において何ができるのか。様々な考え方があり、いずれも尊重されるべきものと考えますが、私個人としては、1つは検査によるコロナ感染者の発掘、もう1つはワクチン接種による感染拡大防止、この2つがむしろ小医院の町医者でこそ担えるコロナ医療であろうと信じ、奮闘していたところの突然のワクチン不足通知。積極的な接種がワクチン不足の元凶のような雰囲気になってきました。良かれと思っていたことが一夜にして覆される感じです。
新型コロナウィルスも変異を重ね、今、国内で拡大している感染力の強いインド由来のデルタ株に続き、次はさらにタチの悪いペルー由来のラムダ株が欧州辺りまで流行って来ています。そしてこれから世界の祭典オリンピック開催。これについて傍観しかできない私の頭には、トランプ米国前大統領がよく言っていた”We'll see what happens.”が巡ります。
当院の訪問診療の在宅患者に100歳を超える高齢独居のお婆さんがおられます。その娘さん家族は県外の遠方に住まわれ、コロナ禍のため会いに来ることができずそろそろ1年半になります。患者様は当院と介護保険事業所で医療保険と介護保険を駆使して支えていますが、年齢的にもう先がありません。県外の方と接触したら一定期間のサービスが提供できない介護保険事業所も多く、介護保険サービスで生活が成り立っていることを考えると、娘さんが県外から帰ってくることはできません。事業所に非があるわけではなく、現状では仕方ないことです。しかし命のあるうちに娘さんに会わせてあげたいと思うばかりです。このようなケースは無数にあるのではないかと思います。病院の入院患者も、なかなか家族と面会も出来ず、臨終に家族が立ち会えないケースも多いでしょう。
今の願いを一言で申し上げると、非常にありきたりで恐縮ですが、コロナ禍が早く終わって欲しいということです。ポストコロナは以前とは変わるとよく言われますが、私は会議は杓子定規な質疑になるオンラインではなく、以前のように膝を突き合わせ、熱い議論がしたいと思います。講演会も怠け者の私には会場での聴講の方が勉強になり、会場でのちょっとした会話も有益な情報交換になります。そんな選択枝がまた選べられる時代に早く戻って来て欲しいと思います。
これからまだしばらくはあの一本鎖RNAに世界も我々も翻弄される日々が続くと思われますが、会員の先生方の御協力と御知恵をお借りしながら、この難局を乗り越えていければと思います。
投稿日時: 2021-08-02 09:00:00 (326 ヒット)