2023年 5月 巻頭言
巻頭言
脳多様性(Neurodiversity)
御津医師会 監事 大橋 基
脳多様性(Neurodiversity)とは、1990年代から米国を中心に、精神疾患や障害と診断された/自己診断した当事者たちのコミュニティの間で使われるようになった言葉である。それは、脳の機能や発達の差異を精神疾患や障害とみるのではなく、人間集団のなかに存在するばらつきの一種として扱おうとする考え方を意味している。より狭義には、脳の何らかの異常が存在する発達障害であると考えられている状態、つまり自閉症スペクトラム(とくに「アスペルガー症候群」)や ADHD(注意欠如・多動性障害)の人々を意味したり、そうした人々自身によって自分を指すために使われたりする。広義には、教育家のトーマス・アームストロングのように、他の精神疾患や障害についても、この考え方を適用し、学習障害(とくにディスレキシア(難読症))、うつ、不安障害、精神発達遅滞(ウィリアムズ症候群、ダウン症など)、統合失調症なども、脳多様性に含めている場合もある。彼は、「人間も人間の脳も、能力の連続体のどこかに位置する」、「障害があると見られるか、才能に恵まれていると見られるかは、生まれた場所と時代で決まる」と主張して、多様性について次のように述べている。私たちが、生物多様性や、文化、人種の多様性で学んできた教訓は、人間の脳にも当てはめる必要がある。人間の脳をあるがままの生物学的な存在ととらえ、社交性や学習、注意、気分といった脳の重要な機能における幅広い自然な相違を認める「脳の多様性」という新しい分野が求められている。脳であれ脳以外の身体であれ、個人間の違いを疾患や障害として否定的に意味づけるのではなく、個性のあり方と見なし、さらには肯定的な才能を見いだそうとする方向性がそこにはある。(脳の多様性とは何か 京都大学・美馬達哉)
今年は、みんなちがってみんないいと詠った、金子みすゞ生誕120年になるようだ。
あなたはあなたでいい
『私と小鳥と鈴と』
私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のように、
地面(じべた)を速くは走れない。
私がからだをゆすっても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のように、
たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。
脳多様性(Neurodiversity)という考えは「発達障害をどう治療するか」から「発達障害が障害にならない社会をどうめざすか」へのパラダイムシフトになり得るのではないかと考えられる。
投稿日時: 2023-05-17 11:36:38 (212 ヒット)