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2024年12月 巻頭言

巻頭言

 

御津医師会監事 
大橋 基          

 

 ACP(Advance Care Planning)が導入されてしばらく経ちましたが、なんとなくしっくりこないという感じはあって、日本人の意思決定に関与する家族の影響とか、周りの人の気持ちに配慮する気質とかがあまり考慮されていないなと思っていました。最近、会田薫子氏の著書に出会い、少し視野が広がりました。以下に紹介してみます、皆様の参考になりましたら幸いです。
 「おのずから」と「みずから」―日本思想から学ぶ―本人・家族側と医療・ケアチーム側が対話しながら進めるACPのプロセスにおいて、日本人はそもそもどのような言葉を使い、どのように考え判断するのか、日本思想の知見から考えてみたいと思います。国語学者の大野晋がいうように、「日本の言葉が日本人の考え方をどのように決めてきたか、また、日本人の考え、感覚がどのように言葉に反映しているかを具体的に見ること、(中略)それは日本人の暮らしの習慣や、それについている感情や判断の仕方などの本当の姿を、私たちにみせてくれるかもしれない」からです。
 『例えば、意思決定に関して倫理学者で日本思想研究者の竹内整一は、ある言葉による特徴的な表現に着目し、以下のように述べている。「われわれはしばしば、「今度、結婚することになりました」とか「就職することになりました」という言い方をするが、そうした表現には、いかに当人「みずから」の意思や努力で決断・実行したことであっても、それはある「おのずから」の働きでそうなったのだと受けとめるような受け止め方があることを示している。」』
日本人のACPの対話においては、「なりました」と云える状況になる事、換言すれば、当該の医療・ケアの選択とその結果が「おのずから」であると関係者が認識するように、対話のプロセスを経ることが大切だと云えるのではないでしょうか。つまり、関係者の納得と自然な成り行き感が重要であると考えます。その意味では、日本人のACPにおいて、求められている対話は「おのずと決まることにつながる対話」といえるでしょう。これは米国のACPにおける対話が「本人が決定したことを実現するための対話」であり、「本人みずから決めることを支援するための対話」であって、その手段としての事前指示や意思決定代理人の指名が勧められていることと対照的であるといえるでしょう。
 日本のACPを英語圏諸国の模倣ではなく、日本人の思考の在り方に沿って心の安寧が得られるものとし、かつ、決めることが苦手な日本人特有の気質による、無責任な成り行き主義産物としないためにも、医療・ケアチームは倫理的な姿勢をもって、本人・家族等と適切に情報共有しながら、一人ひとりに対応する必要があると云えるでしょう。つまり、大切なのは、本人の生物学的な状態に関する適切な診断と医学的根拠を踏まえた治療・ケアの選択肢とその益と害について情報共有し、本人の人生の物語に関する情報も共有し、本人の人生の物語の視点から本人にとっての最善の選択は何かをともに検討する「情報共有-合意モデル」(共有意思決定・SDM:shared decision-making)に沿った対話のプロセスを経て合意形成に至ることだといえるでしょう。
 

投稿日時: 2024-12-17 10:00:42 (21 ヒット)


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