2017年11月巻頭言を掲載
巻 頭 言
高齢者医療で思うこと
御津医師会理事 江原 芳男
私が医療に携って50年になる。この間の医療の進歩は目覚しいものがあり、開業医としてその時、時の流れに乗り大過なく今日まで過ごしてきたように思う。
昭和30〜40年代の初め、医師の役割は「病を治すこと」と学び、医療の対象は若年者や成人であり高齢者は少なかった。
当時大学で学んだことは疾病診断学・治療学であり、問診,視診,触診,聴診を基本とした諸検査を含む総合診療学であった。
しかし、そこでは慢性期医療、終末期医療、在宅医療などを学ぶことはなかった。その後高齢化社会を迎え疾病構造が大きく変化し、医療技術や器機の進歩により医療体系が変わってきた。
この50年間、医師として数多くの患者の治療に当たってきたが、逆の立場の患者として4回に亘って入院治療を経験して、医療のあり方が大きく変わったことを強く感じた。
最初の入院は医師になって5年目と12年目の頃、急性期医療として治療を受け完治した。
3回目の入院は今年脊柱管狭窄症の手術を受けた。入院に際し高齢者患者としてマニフェストに従い多くの注意事項を聞き、最後に「もしもの時の身の振り方や希望について」チェックを指示された。今で言うACPである。
この項目は医療者として十分理解していた筈が、実際の場面では戸惑いながら改めて再認識したものである。
今、高齢者が求めている医療は何か?ある調査によると、高齢者は「有効な医療を受けること」を第一にあげている。
治る病態を“齢だから”という理由で壮年者と区別することは望んでいない。更に生活機能を維持すること、家族の介護負担を増やさないことなどを求めている。
高齢者患者にとっては「医療は頼れるものであり、日常生活復帰への魔法みたいなもの」と感じているようである。私は医療のお蔭で好きなゴルフもジョギングも再開できるようになり、医療関係者には大変感謝している。
しかし、80歳以上の高齢者では入院医療だけではすぐに元通りの生活には復帰できない人たちが半数以上いると言われる。
これに対処するために急性期回復期医療から介護サービスへの移行が必要不可欠となっている。
以前のような医師と看護師との連携だけでは事足りない面が多くあり、多職種との連携協働が強く求められる時代が通常となってきた。
御津医師会はこの分野では当に最先端を走っている。大いに参考にしたいと考えている。
投稿日時: 2017-10-30 12:45:50 (695 ヒット)