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2016年7月巻頭言

                  御津医師会副会長 難波 経豊 

 じめじめした鬱陶しい季節ですが、会員の皆様におかれましては、変わらず忙しくご活躍のことと存じます。この会報が皆様のお手元に届く頃には梅雨も晴れてからっとした夏になっていますでしょうか。
 わが御津医師会は本年5月に定時総会を無事終え、新たに大橋会長を中心とした体制が始動いたしました。そして、塚本理事、大守理事、中山理事とともに、私も副会長を拝命いたしました。任期の2年間、大橋会長を支えながら、3名の副会長の先生方とともに御津医師会をさらに盛り上げていく所存ですので、引き続きご指導ご鞭撻のほど何卒よろしくお願いいたします。
 さて、地域包括ケアが国を挙げて推進されている昨今、我々が出席する会議などではしばしばこれについての話に出くわします。在宅医療はあくまで地域包括ケアの一部分ですが、我々が主に関与する部分ですので、地域包括ケアの話になると、在宅医療やそれに関連した病院や介護サービスとの連携の話題が付き物です。
 先日、ある会議に出席した際「昔は高齢者の面倒は家族が見るのが当たり前と言われており施設に入所させにくかったが、最近では施設入所の敷居が低くなり、施設に入所される高齢者が多くなって、訪問診療の件数が減っている」という話を聞きました。果たしてそうなのかと私は首を傾げました。
 病気によっては健康な方が突然の体調悪化で急に自力で生活できなくなる場合もありますが、多くの方は病気を重ね「時々入院ほぼ在宅」を重ねながら、徐々に弱って通院が困難になり、さらに徐々に弱って自宅生活も困難となり施設入所が必要になるという経緯をたどります。すなわち施設入所が必要となるまでには相当の時間が存在します。そう考えると、看取りまで行う施設が多くなれば在宅看取りは減るかもしれませんが、在宅医療そのものが減るとは考えにくく、我々が在宅医療を提供することで地域に役立つ場はまだまだそこにあると確信しています。
 ただ、自力での自宅生活が困難となり施設入所が必要になったとしても、いまは簡単に入所できる状況ではなく、今後もさらに厳しくなると私は考えています。
 一億総活躍社会の掛け声のもと、介護離職、すなわち身内の高齢者の介護のために職を辞するようなことを減らすために、高齢者を預かる施設を増設するとの話も確かに聞こえています。しかし、そこでよく話題にのぼる特別養護老人ホームの増設ならば、これは介護保険の施設であり、負担の大部分は介護保険となりますが、社会福祉の財源が枯渇しそうな現状で、特別養護老人ホームの利用者が増えて介護報酬は支払えるのでしょうか?その対策として大幅な介護報酬の引き下げや介護保険料率の引き上げを図るかもしれませんが、そうなると現在も薄給の介護士の給与がさらに下がり、介護職員の確保はさらに困難になるでしょう。そして施設は淘汰されます。介護職員の人員要件が緩和されるかもしれませんが、それによって介護の質は低下し、やはり淘汰されるでしょう。では、サービス付き高齢者住宅の増設はどうでしょう。訪問介護などの介護報酬をあてにして賃料を安くすることもできますが、それがあてにならなければ賃料の値上げは避けられません。このような施設は今でも比較的高額で、年金生活の高齢者が誰でも使える施設ではありません。そうなれば、自力での自宅生活が困難でも在宅で過ごせる選択肢がなければ、多くの高齢者は行き場がなくなってしまいます。我々が提供する在宅医療や、介護サービスとの連携による生活支援、そして、何かの時の病診連携による「時々入院ほぼ在宅」という形は、この選択肢としてこれからも継続して重要な役割を担うことと思います。
 もう一つ気になることがあります。介護保険では「上乗せ」や「横出し」など、医療保険でいう混合診療に当たるものが認められており、要介護度ごとに決められた介護保険の上限に達すれば、それ以上のサービスは自費になります。それでも、さらにサービスによっては介護度の低い高齢者が適応から切り外されていっています。要するに介護は介護保険だけでは賄い切れないという状況です。それと同じ人数が、明らかに単価の高い医療保険を使っています。保険料率が介護保険とは違うものの、介護が無理なのに医療は医療保険だけで賄い切れるものでしょうか?
 家族も寝静まった夜の帳、好きな日本酒を飲みながら、そんなことをボーッと考えて思いに耽ることもある今日この頃です。
 

投稿日時: 2016-06-29 12:42:30 (868 ヒット)

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