『「安」・下町ロケット・そして、琴奨菊初優勝!』
国立病院機構岡山市立金川病院 院長 大森信彦
例年、年の瀬の話題となる『今年の漢字』。昨年は「安」が1位に選ばれた。安心、安全、安定、安保、安倍、原油安、とにかく明るい安村などなど、連想される漢語は多いが、「安」が選ばれた背景には、人々の心に「安心できるもの」への願望や、ドン詰まりの状況から何かしら脱却していけるのではという「右肩が少し上がった安定感」の自覚があったからではないだろうか。「安」に続く2位が「爆」。「爆買い」は素晴らしい新語だと思うが、自国への「不安」から日本製という「安心」を買いに来る外国人が一気に2000万人に迫り、『ものつくり大国』の面目躍如といったところである。しかし最近、これら「もの消費」だけではなく、「こと消費」を求めてのインバウンドの割合が増加しているのだそうだ。「こと」とは、日本ならではのサービスや作法、アニメ、美容技術などなど、言ってみれば日本人が培ってきたスピリットや文化が生み出す「無形文化財」的商品といえるだろう。
年末、私はTBSの『下町ロケット』にはまった。ピカイチの技術力をプライドに、「夢」に向けて不屈の戦いを続ける物語で、全10話毎回私はティッシュで目じりと鼻を拭いながら見ていたが、自分の職場のこともダブって主演の阿部寛や吉川晃司に思いっきり感情移入してしまった。これぞ大和魂!「もの」と「夢」が合体してこそ、苦境にもあきらめずに大きな「こと」を成し遂げることができる、というのがメッセージであったように思う。この原稿の執筆中、テレビ・新聞では『大関琴奨菊、10年ぶりの日本人優勝!』のニュースでにぎわっている。『琴バウワー』の愛称と確かな技術をもっていながら一時は大関陥落も危ぶまれた彼は、過去の自分を捨てて、筋力強化を徹底して行い生まれ変わることができた。そのインタビューコメントが泣かせるものだった。「つらいときや結果を残せなかった時も、多くの方々に応援していただき、ここに立ててうれしい」「(両親は)一番つらい時に壁になってくれて、支えてくれた。感謝の気持ちしかありません。」。優勝という夢が、自分を支える人々が与えてくれた「安心」によって熟成、持続され、成就した。奥さんの存在も大きかったであろう。危機に瀕して肝が据わっているのは、やはり女性だから。
医療は技術が基本であるが、それを取り囲む優秀な医療機器の力も相まって、『高度急性期医療』が成り立っている。いわば「もの」としての医療の世界である。しかし時代は『地域包括ケア』の時代へとシフトしていき、地域の人々や風習、風土なども巻き込んだ、「こと」としての「医療・介護・福祉文化」を形成していかねば立ち行かなくなりつつある。患者さんが「一番つらい時に支えてあげられる安心して過ごせる地域社会」を作ることは誰にでも理解できることだが、押し寄せる人口減少の波の前には、なかなか前例にとらわれた「安全策」ばかりでは解決策は見つからない。何が自分たちにとって必要なのかを見極め、決めたら果敢にチャレンジしていく『爆発力』と、突破力がKeyとなるのではあるまいか。御津医師会にはその革新力がある。今年も『猿まね』ではないオリジナリティーを追求しようではないか!
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