巻頭言
8月の雑感さまざま
御津医師会理事 難波 洋一郎
7月末の夕暮れ時、病院からの帰路自宅近くの公園に通りかかるとツクツクボウシの声が聞こえた。確かツクツクボウシはお盆過ぎくらいからじゃなかったかなと思いつつ今年は暑いからセミも早く羽化したのか。ツクツクボウシは通常8月末から9月にかけて鳴くらしいが調べてみると岡山など中国地方の一部では8月初めからでも鳴くということだ。それにしても7月も終わらないうちからツクツクボウシとは、やはり異常気象。
2年前に八甲田を旅行した時に奥入瀬渓流沿いの道路上で子熊の姿を見た。こんな人間の気配が近いところでもクマがいるのだとびっくりしたのを憶えている。今年はクマの出没件数がすでに過去最高の水準に達しているらしく7月末まででクマに襲われて死亡された方も55名となっている。被害に遭われた方には申し訳ないが、もともとのクマの生息域に人間の生活域が広がってしまったために衝突が起こったのではないだろうか。以前はヒトとクマの生活圏の境界というものがあってお互いに暗黙の了解を尊重していたが、最近はヒトを恐れないクマが増えてきたり、自然界のクマのエサの減少で人里に降りてくる個体が多くなったりしたのではないだろうか。これも大きな意味で人災と言うべきか。
昨年1月の能登半島地震の記憶も冷めやらないうちに6月からトカラ列島近海の群発地震、7月30日にはカムチャツカ半島地震による津波騒動、そして連日の熱中症警報に線状降水帯と自然界の異常現象が連続している。今まで聞いたことのない言葉が紙面を賑わしている。そして人間界はというとやり手のトランプに振り回され一喜一憂、加えてコメ不足、参院選では与党の過半数割れと数年前には思いもしなかったことが矢継ぎ早に起こっている。人災と天災は忘れた頃にやってくる。それにしても暑い。
医療・介護業界では病院の倒産、経営状況の悪化(医業収益、経常利益の赤字化)が報告され、加えて物価高騰、人手不足と先行き暗い話が続いている。何かと理由を付けて補助金を求めてももともと診療報酬で上限は設定されており消費税も計算外なのだから一時しのぎにすぎない。所詮お上の筋書きどおりに誘導されるのであれば、その筋書きの中で最大限の努力をする以外ないのではないか。2040年に向けて新しい地域医療構想が策定されつつある。従来の「治す医療」だけでなく「支える医療(医療・介護)」との役割分担や地域完結型の外来・在宅・入院の複合的な提供体制の構築、そして高齢者救急と後方支援システムの確立である。これに加えていわゆるデジタル化、DX、ICTの波に乗ることも求められるであろう。我々はこの大きな潮流に流されながらも漂流することなく航海を続けて行かねばならない。潮の流れの変化を先取りし方向を定めることが大切だ。患者さんだけを一生懸命見ていれば良かった時代が懐かしいと思うのは私だけだろうか。
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