巻頭言
薬剤耐性(以下AMR)対策アクションプラン (2023-2027)
御津医師会 副会長 中村 毅
これまで、国は「AMR対策アクションプラン(2016-2020)」に基づき、AMRに起因する感染症による疾病負荷のない世界の実現を目指し、AMRの発生をできる限り抑えるとともに、薬剤耐性微生物(ARO)による感染症のまん延を防止するための対策を進めてきた。 こうした取組により、一部の指標は改善傾向にはあるが、改善の乏しい指標や新たに生じた課題がいまだ多くあり、引き続き、国際的な動きと協調しつつ継続的にAMR対策に取り組んでいく必要がある。そこで、新たに「AMR対策アクションプラン(2023-2027)」を定め、更なるAMR対策の推進を図ることとした。
「AMR対策アクションプラン(2023-2027)」では、6つの分野に関する目標(大項目) を設定し、目標を実現するための戦略(中項目)及び戦略を実行するための具体的な取組(小項目)をそれぞれに設定した。この大項目の一つに「抗微生物剤の適正使用」がある。厚労省は先の「AMR対策アクションプラン(2016-2020)」をもとに、2017年6月に「抗微生物適正使用の手引き」を初めて発行した。2018年4月の診療報酬改定の際には「小児抗菌薬適正使用支援加算」を盛り込み、小児における抗菌薬の使い方を考え直すように誘導してきた。それに遅れること4年、2022年4月の改定では「耳鼻咽喉科小児抗菌薬適正使用支援加算」が設けられた。
2024年6月の改定では、「外来感染対策向上加算(6点)」の施設基準を満たしていることを条件に「発熱患者等対応加算(20点)」が算定できるようになった。その他に「サーベイランス強化加算(1点)」、「抗菌薬適正使用体制加算(5点)」、「連携強化加算(3点)」が算定できる。コロナ禍をくぐり抜けて来た開業医の先生方にとって、「外来感染対策向上加算」や「発熱患者等対応加算」は比較的容易に算定できると思われる。その他の加算もAMR対策を考えると算定するべきものと考える。「サーベイランス強化加算(1点)」は、電子カルテを導入しているクリニックならそれ程難しくない。各月の診療報酬を請求するためのデータを匿名化し、「診療所版j-siphe(oascis)」というサイトに自院を登録することでサーベイランスに参加していることとなる。サーベイランスに参加すると、抗菌薬使用状況評価(Access比率)がわかる。Access抗菌薬に分類されるものの使用比率が60%以上またはサーベイランスに参加する医療機関全体の上位30%以上であることで、「抗菌薬適正使用体制加算(5点)」が算定できるようになる。さらに「感染対策向上加算1」の届出を行っている医療機関に過去1年間に4回以上、感染症の発生状況、抗菌薬の使用状況等について報告を行うと「連携強化加算(3点)」が算定できるようになる。診療報酬に算定させることで、国はAMR対策アクションプランの実現に向けて動いているわけである。
Access抗菌薬とはWHOが推奨する新しい抗菌薬適正使用の基準(AWaRe分類)の中の“A”に該当するものである。ちなみに“Wa”はWatch、“Re”はReserveである。“A”に分類されている抗菌薬は、一般的な感染症に使い、“Wa”は耐性化が懸念されるため、限られた場合に使用すべき、“Re”はAMRのために他の手段がなくなったときに使用すべきと定義されている。“A”に当たる抗菌薬はペニシリンやセファレキシン、セファクロルである。“Wa”に当たるものにセフジトレンピボキシルやクラリスロマイシンなどが挙げられる。小児急性中耳炎診療ガイドライン(2024年版)では、中等度以上の重症症例に、ペニシリン系抗生剤を3〜5日間使って改善ない場合には、セフジトレンピボキシルを高用量使うようなことが治療の選択肢として記載されている。WHOの推奨とは少し異なっているのである。情報の取捨選択を行い、抗菌薬の使い方が四半世紀前に学んだものとは随分異なってきていることを理解し、当院に通院して下さる患者さんに提供できる医療の質を保っていきたいと思う。
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