巻頭言
最近の気管支鏡事情から思う
御津医師会理事 柴山 卓夫
国連のアントニオ・グテーレス事務総長が「地球は沸騰化の時代」と評した長く記録的な猛暑も終わり急に肌寒くなりました。今年は新型コロナウイルス感染症診療に様々な変化がありました。2020年1月に始まった「コロナ禍」もウイルスの変異や公衆衛生学的な知見の集積、抗ウイルス薬、ワクチンの開発などにより、徐々に収束の方向に向かっており、本年5月には感染症法上「5類」に移行、さらに10月には医療提供体制が見直され、治療薬の一部自己負担とともに、感染縮小局面と判断される岡山では全医療機関の一般病床で入院治療を行うこととなり、11月にはとうとう専用病床が無くなりました。
さて、今回は私の専門分野である気管支鏡診療の進歩を紹介したいと思います。振り返ると、気管支鏡の歴史は肺癌検診の歴史とともにありました。1971年に国立がんセンター池田茂人先生によって気管支ファイバースコープが開発され、岡山でも1973年に気管支ファイバースコープ検査による肺がん確定診断法が確立されました(旧結核予防会岡山県支部岡山診療所)。私が最初に気管支鏡に触れたのは1986年でこの結核予防会岡山診療所でした。当診療所では肺癌診断率向上を目的として、1989年より気管支鏡技術と細胞診技術を併せた「迅速細胞診」と呼ばれる技術を導入されました。それは現在では気管支鏡検査中に細胞診診断を行うROSE(rapid on-site cytologic evaluation)と呼ばれる技術でした。2000年以降、CTから得られるデータを3D表示した仮想気管支鏡ナビゲーション(virtual bronchoscopic navigation, VBN)や超音波を利用し腫瘤への的中を画像的に確認する末梢気管支型超音波断層法(radial-endobronchial ultrasonography with a guide sheath, EBUS-GS)などが開発され、末梢肺癌の診断率は急速に向上してきました。2017年に薬事承認されたクライオプローブを用いたクライオ生検は、末梢肺癌に的中しなくても腫瘤に接さえしていれば到達したクライオプローブを中心に約1cm径の範囲を凍結させることにより腫瘤の一部の採取が可能で、診断率をさらに向上させています。
近年、手術支援ロボットを用いた外科手術が様々な領域で行われていますが、気管支鏡分野においてもロボット支援気管支鏡の開発が進んでいます。気管支内超音波プローブを腫瘤に誘導する遠隔制御カテーテルと肺の末梢まで誘導可能な3D表示した仮想画像に基づくコンピュータ支援ナビゲーションを組み合わせたロボット支援システムであり、今後の進展が期待されています。
私たち呼吸器内科医の弛まぬ研鑽と進化したA Iがもたらす技術革新が気管支鏡検査をさらに安全で確実なものに発展させることを望みます。
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