巻頭言
御津医師会理事 江原 弘貴
皆さまご存じの通り、今年5月からCOVID-19の感染症法上の取り扱いが変更されてマスク着用も「個人の判断」に委ねられるようになりました。医療機関や介護施設においてはその特性を汲まれたのか引き続きマスク着用を求めるとされており、私が診療しているクリニックでも殆どの方が自発的に(そうでない方もお伝えすれば)着用してくださっています。しかし外に出るとマスクを着用されていない方を大勢見かけるようになり、あの時期を境に人々の意識が大きく変わったことを実感します。先日利用したタクシーの運転手さんによると「私の印象だとマスクをしているのは3割くらい、年齢も性別も関係ないですね」とのことでした。その一方で他の感染対策の状況はというと、残念ながらアルコール消毒液を使用される方は非常に少なくなっており、3密回避という日本発の有効な対策も以前ほど顧みられていないように思います。3年間以上ままならない日々を過ごしてきたことを思えば、「コロナの諸々にもう煩わされたくない」という雰囲気になるのも無理のないことかもしれません。
ではCOVID-19という病気が世の中からなくなってしまったわけではなく、これまでと同じく人流の再開とともに(他の諸々の感染症も含めて)罹る方が増えています。毎週金曜日の定点(指定医療機関)からの報告患者数でもそうですが、クリニックを受診された患者さんのことばも「周りは何ともないが、自分だけ喉が痛い」から「職場でコロナが数人出ていて、自分も咳が出る」へと変わってきました。ワクチンや抗ウイルス薬という重症化を抑える方法が確立し、実際に多くの場合で軽症のまま回復すると実感されるようになったためか、自他のCOVID-19の診断を淡々と受け容れられている印象です。かたや重症化・合併症・罹患後症状(後遺症)については「どこか遠い世界のお話」のようですが、今の様相がいつか掲げられた「ウィズコロナ」なのでしょうか。
ともあれ、私たちはこの3年間で多くのことを経験しました。人と逢う時はできるだけマスクを着けて、ことあるごとに手を洗って(消毒して)、密接・密集・密閉を減らして、自分だけでなく『目の前のひと』を様々な感染症から守ることができました。幼いひと、持病をお持ちのひと、ワクチンを受けられないひとが、誰かの大切なひとが守られてきました。一つひとつの手間は決して大きくはなかったと思います。その時々に各々ができる範囲で、ご家族、ご友人だけでなく通勤のバスや電車でよく見かける誰かのことを少しでも慮って、そのひと手間をかけられる世界が残ってくれればと願ってやみません。
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