巻頭言
御津医師会理事 鳥越昇一郎
数か月前医師会メールに ”開業医は孤独だなあ”という書き込みがあり、それ以来 “孤独” という言葉が気になっておりました。新型コロナウイルス感染症の流行による外出自粛や行動制限で世界が狭まり、人とつながる機会が減り、孤独感が増しているとの指摘もあります。人とのつながりが健康に与える影響について探ってみたいと思います。
海外での報告では、孤独を感じて落ち込むと、睡眠パターンが乱れ(寝過ぎ、または寝なさすぎ)さらに気分が落ち込むという悪循環をきたし、心血管系においては、ストレスホルモンのコルチゾールの増加により狭心症や脳卒中のリスクが30%高くなり、孤独は喫煙と同じリスクを心臓にもたらすようです。また孤独が続くとストレス信号が出ずっぱりになり、免疫系の機能に悪影響を及ぼします。日本では65歳以上の高齢者を対象に調査したところ、友人と月に1〜4回ほど会っている人は、ほとんど会わない人に比べて、血糖コントロールが不良となるリスクが半減するという報告があり、また要介護状態でない人が5年後に認知症にならない確率は、料理をしている人はしていない人の3.3倍、趣味がある人はない人の2.2倍であったとのことです。
このようにその影響は、高血圧、アルコール依存症、うつ病、狭心症、糖尿病、認知症など多岐にわたります。また孤独は、孤食になりがちで、とくに高齢者の場合は、かむ力や呑みこむ機能が低下しているため、やわらかい、食べやすいものばかりを食べる傾向がみられ、糖質過多による肥満や、たんぱく質不足による低栄養に陥りやすくなります。
このような状況の解消に向けてイギリスでは2018年1月に「孤独担当大臣」というポストが新設され、孤独な高齢者向けの24時間対応のヘルプラインや中高年が集まるサークル活動など、仲間を作るための取り組みが試行されています。日本では孤独というリスクに対し、メタボや癌対策程には未だ注目されてないようです。
日本生活習慣病予防協会が、健康スローガンとして「一無(禁煙)、 二少(少食、少酒)、三多(多休、多動、多接)」を提唱しています。このうち“多接”とは、多くの人・事柄・物に接して、生活していくことです。たくさんの人と接する機会をもつこと、誰かと食事をする機会をもつことも重要ですし、ボランティアなどの社会活動に参加するのも効果的です。子ども食堂に関わっておられる女性の方から、私の方が却って元気をもらうんですと伺ったことがあります。
感染症のこともあり容易ではありませんが、“多接”を心がけていきたいものです。
|