巻頭言
「忙中閑有り」
新あしもりクリニック
吉田 英紀
私は短歌を趣味の一つにしています。きっかけは今から二十五年程前に当院のデイケアの利用者から、何か少し頭の体操もしたいので短歌や俳句、川柳などをしてみませんかとの提案があったことです。そこで素人の集まりでしたが「あすなろ会」という文芸の会を立ち上げ、毎月、短歌二首、俳句、川柳を二句ずつ作っていただき、それを集めて経験のある会員の方達と月に一回勉強会を続けてきました。そして会員の一年分の作品をまとめて「あすなろ会誌」という小冊子にして発刊しています。最初はどうなることかと心配いたしましたが「継続は力なり」を合言葉に今日まで続けています。数年前から岡山歌人会の能見謙太郎先生の御指導を受けられるようになり、厳しい中にも楽しく勉強させていただいております。私も「万葉集」や西行、良寛などの作品に共感を覚えていたこともあり、また日本人の体には五・七・五のリズムが自然にしみ込んでいることもあってか、今では楽しんで作句しております。短歌をはじめて良かったことは、日常の生活の中での森羅万象に対して、ものの見方がより深くなったことではないかと思います。毎日日記を書くことは不精な私には難しいのですが、日々折々のささいな気づきを、短歌や俳句という短文の中に凝縮して残していくことは出来るような気がします。人生はよく旅にたとえられますが、私も旅が好きで出来るだけ時間を作って旅に出かけるようにしています。「あすなろ会誌」に旅の紀行文を短歌や写真も混じえて書かされるようになり、旅でのものの見方や感じ方もより深くなり、旅の楽しみも大きくなったように思います。今では短歌との出会いを感謝しています。最後に旅の中で詠んだいくつかの短歌を御披露して、このつたない文章を終えたいと思います。これらの短歌は能見先生に誘われ「岡山県歌人会作品集第十五号」に載せていただいた「旅のつれづれ」と題した作品です。
・今はただ 苔むす墓石を 見る許り 敵も味方も 高野山に眠る
・天草の 頼山陽の 歌碑の前 詩を吟じつつ 旅情にひたる
・武士道を つらぬき散華せし 悲話残る 会津巡れば 春風寒し
・見物せる 大英博物館に おどろきぬ 人の歴史と 業の深さに
・シチリアの 路地に腰かけし 老夫婦 われらの手握り 無事祈り呉る
・価値観も 人生観も 変わるかと 広大無辺の ユーラシア行く
|