2017年8月巻頭言

投稿日時 2017-07-28 12:34:29 | カテゴリ: 18代会長 大橋基先生

 巻 頭 言
 

御津医師会理事 菅原 正憲 
 

高齢者の在宅医療については施設入所者を含め、我が医師会でも病・診・介護・薬局を巻き込んでたびたび会議を開き懸命に取り組んでいるが、終末期を迎えた高齢の患者を「いかにたらい回しするか」の会議であると意地悪な見方も出来る。

患者を抱えた家族や施設の不安と、我々在宅医の無力さの解消として、「とりあえず何処でもいいから入院させよう」というのが本音である。
過日新聞で「寝たきり高齢者の誤嚥性肺炎は治療しなくてよい」というような見出しを目にした。

高度の認知症で昨年当方の施設に入所された患者で、全身は拘縮状態、胃瘻増設、開眼はしているが呼びかけに反応もない状態。
昨年秋黄疸で入院、十二指腸乳頭部癌と診断、ERBD tubeの定期的交換で減黄治療のみしているがたびたび胆管炎や誤嚥性肺炎を繰り返す。
5月には腫瘍からの出血でHb<5gまで低下。家族に「このまま自然な経過で看取っては如何ですか」と勧めると、「先生はどうして、積極的に治療してくれないのですか」と不満を訴えられ、輸血をして感染症の治療も継続している。
過去には逆に、乳がんの末期で意識も清明な患者が、自らの意思で治療と摂食を絶ち穏やかに終末を迎えた患者もある。

医者が勝手に、「人の価値を裁量して、治療を決める」というのも全く傲慢な話だが、保険医療を破綻させかねないような高額な医療を誰彼なく行うことにも問題があろう。
アメリカでは国民皆保険を目指した「オバマケア」は罰則まで設けて保険加入を義務づけた結果、増税と保険料の高騰を招き国民の支持が得られなかった。
代わろうとしている「トランプケア」は民主党の反対や保険市場の喪失による反発で思うようには移行できそうになく、いずれにしてもとうてい日本のような皆保険制度とはほど遠い。
元来アメリカでは国家が一律に国民の保険をカバーするのは「社会主義的な考え」と嫌悪する向きもあるらしいが。

話はそれたが、終末期を迎えた在宅患者について、我々が「在宅医としての威厳を持って」いわゆる常識的見地から家族や施設の理解と協力を得て本来の「在宅での看取り」をめざしたいものです。





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