これからの耳鼻咽喉科の行く末は?
なかむら耳鼻咽喉科 中村毅
私が子供の頃受けていた耳鼻咽喉科の診療とは、耳掃除や鼻掃除、のどにスプレーをして鼻や喉からネブライザーや吸入をする。この診療を毎日受けることが早く治る為には重要だと説明されていました。そして、受付すると診察を受けるまで結構長い間待っていた記憶があります。
これが、今も成り立つのでしょうか?核家族化が進行し、かつ共稼ぎの家庭も多くなっています。PTAの会長が小学生を殺めてしまう現代に子供だけで病院を受診させるのもちょっと不安。そんな患背景の方が毎日通院するのは厳しいです。診察や会計、門前の薬局などでの待ち時間がそれぞれで10分あったとして、自宅を出て帰宅するまで1時間で済むかどうかだと思います。その間にできる家事、仕事を考えるとどうしても耳鼻咽喉科への受診は足が遠のいてしまうと思います。自然とこちらから毎日通院するように指導することは少なくなり、週に2回や週に1回、滲出性中耳炎や通年性のアレルギー性鼻炎などの場合は2〜4週に1回の通院しか指導しないようになりました。大学医局の諸先輩方から1日に200人も300人も診察していたという話を伺います。その中に連日通院し処置をしていた患者がどれだけの割合を占めているのか私は知りません。ただ、今の私に同じ人数を診察するのは難しいです。1日に多くの人数を診察するというスタンスが成り立ちにくくなってきているのです。
10〜20年前の診療報酬の改定で耳処置や鼻処置、副鼻腔開大処置、耳管通気処置など、それまで耳鼻咽喉科で請求できていた処置が200床以上のベッドを持つ病院では再診料にまとめられるようになりました。これを境に病院で処置を行う回数が減りました。すでに私の後輩は耳管通気処置が出来ません。そんな勤務医が開業して今までやっていなかった処置を行っても技術としてはぬるいものとなってしまいます。それは、耳鼻咽喉科医としての価値を下げてしまっていることになります。
1日に診察できる人数も減り、耳鼻咽喉科医としての技術を身につけるチャンスも減り、耳鼻咽喉科医の価値が失われてきているのではないかと思います。
世の中は平均寿命が延びています。高齢者から特に要求される耳鼻咽喉科の疾患は、老人性難聴、嚥下障害などです。難聴は防音室の中で聴力を評価することが必要です。嚥下はVF(ビデオ嚥下透視検査)やVE(ビデオ内視鏡検査)のような器械が必要です。どちらも往診で行うのは難しく、患者さんに診療所に来院して頂かなないとしっかりと評価できません。往診診療に参加したくてもできないのが現状です。
厚労省のHPを見ると、日本の医師の届け出人数は、平成26年12月31日時点で311205人です。日本耳鼻咽喉科学会の会員の数は、1万人を超える程度(3%強)です。学会はいち早く新専門医制度を採り入れ、世の波に乗れるようにしているのですが、処置もできない、往診もできない、頭頸部外科は手術時間が長い(12時間の手術は当たり前でした)、その割に一般的にはメジャー科に比べ見下される、となると耳鼻咽喉科医のなり手も減ってきます。もともと3%強しかいないのに人数が減ればさらに発言権がなくなり、それは診療報酬の改定の度に耳鼻咽喉科領域が減点されてしまう懸念につながります。その流れの中で耳鼻咽喉科医として何ができるのか、何をすべきなのか日々考えている今日この頃です。
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